自分だけが幸せになるのではなく——アドラー心理学のカウンセリングが「相手役の幸せ」も目指す理由

ジブンが変わる

人間関係の悩みを抱えて、カウンセリングに来られる方がいます。

「夫が私の話を聞いてくれない」

「子どもが言うことを聞かない」

「職場の上司に振り回されている」

目の前にいるクライアントは、その関係の中で苦しんでいます。

ですから、カウンセラーがクライアントの苦しみを軽くし、その人が今より幸せに生きられるよう支援するのは、当然のことです。

しかし、アドラー心理学のカウンセリングが目指しているのは、それだけではありません。

クライアントの幸せと同時に、その相談の中に登場する「相手役」の幸せも目指します。

なぜ、目の前にいない相手の幸せまで考えるのでしょうか。

そこには、アドラー心理学の「社会統合論」という考え方があります。

人は、人との関係を離れて生きることはできない

アドラー心理学では、人間を社会に組み込まれた存在として捉えます。

私たちは、一人だけで生きているわけではありません。

家庭の一員であり、職場や地域の一員でもあります。誰かと関わり、協力し、支えたり支えられたりしながら生きています。

たとえ「これは私個人の問題だ」と思っていても、私たちの行動は周囲の人との関係に影響を与えます。

反対に、周囲の人との関係も、私たちの感情や行動に影響を与えています。

つまり、自分の幸せと周りの人の幸せを、完全に切り離して考えることはできないのです。

アドラー心理学では、自分だけが得をして、相手が傷ついたり、居場所を失ったりする状態を、本当の意味での幸福とは考えません。

「周りの幸せなくして、自分の幸せはない」

これが、アドラー心理学のカウンセリングを支えている大切な考え方の一つです。

相手に勝つことが、幸せとは限らない

人間関係に悩んでいるとき、私たちは無意識のうちに「どちらが正しいか」という枠組みで考えやすくなります。

「私は間違っていない」

「相手の考え方がおかしい」

「相手が変わってくれれば、私は幸せになれる」

そう思うこと自体が悪いわけではありません。それほど苦しく、追い詰められているということもあるでしょう。

しかし、カウンセリングが「クライアントの望みをかなえること」だけを目標にすると、相手を思いどおりに動かす方法を一緒に考えることになってしまうかもしれません。

相手を言い負かす。

相手に自分の正しさを認めさせる。

相手をコントロールして、自分の望む行動を取らせる。

それによって一時的に気持ちが晴れたとしても、二人の関係がさらに悪くなれば、クライアント自身の幸せも長くは続かないでしょう。

アドラー心理学のカウンセリングでは、「どうすれば相手に勝てるか」ではなく、「どうすれば、お互いがよりよく生きられる関係をつくれるか」を考えます。

相手役の幸せを目指すことは、自己犠牲ではない

ここで誤解してほしくないことがあります。

相手役の幸せを考えるとは、クライアントが自分の気持ちを我慢したり、相手の要求をすべて受け入れたりすることではありません。

自分を犠牲にして相手を優先することでもありません。

暴力や支配、ハラスメントなどから距離を取る必要がある場合には、自分の安全や尊厳を守ることが優先されます。

また、カウンセラーが目の前にいない相手を直接幸せにできるわけでもありません。

カウンセリングで一緒に考えるのは、クライアントが自分自身を大切にしながら、相手を敵ではなく、一人の人間として尊重できる関わり方です。

自分の思いを伝える。

相手の話を聴く。

意見の違いを認める。

できることと、できないことを明確にする。

必要であれば、適切な距離を取る。

そして、二人にとってよりよい関係のあり方を探していく。

相手を変えるのではなく、まず「私」から始めます。

それは相手に屈することではありません。

自分にできることを自分で選び、自分の人生のハンドルを握り直すことです。

クライアントと相手役の「共通の幸せ」を探す

たとえば、夫婦の問題であれば、「夫に自分の正しさを分からせること」だけが目標ではありません。

その奥には、

「安心して話し合える夫婦でいたい」

「お互いを大切にしながら暮らしたい」

という願いがあるかもしれません。

親子の問題であれば、「子どもを言うことに従わせること」ではなく、

「子どもが自分で考えて行動できるようになってほしい」

「困ったときには協力し合える親子でいたい」

という願いが隠れているかもしれません。

職場の問題であれば、「苦手な相手を排除すること」ではなく、

「安心して仕事ができる環境をつくりたい」

「それぞれの力を生かして協力したい」

という共通の目的が見つかることもあります。

表面的な要求だけを見ていると、クライアントと相手役の望みは対立しているように見えます。

しかし、その奥にある願いを丁寧に探していくと、両者に共通する目的が見えてくることがあります。

その共通の目的に向かって、クライアントにできる小さな一歩を一緒に考える。

それが、アドラー心理学のカウンセリングです。

「私の幸せ」から「私たちの幸せ」へ

カウンセリングは、目の前にいるクライアントのために行うものです。

けれども、その人の幸せを人とのつながりから切り離して考えることはできません。

クライアントが自分を大切にしながら、相手も尊重できるようになる。

相手を敵と見るのではなく、協力できる可能性のある仲間として見られるようになる。

その変化は、夫婦や親子、職場など、クライアントを取り巻く関係にも少しずつ広がっていきます。

自分だけが幸せになるのではなく、相手も自分も大切にできる道を探す。

そして、「私の幸せ」を「私たちの幸せ」へと広げていく。

アドラー心理学のカウンセリングが目指しているのは、そのような幸せなのだと私は考えています。

あなたが今、悩んでいる人間関係の中で、

「私だけが勝つ方法」ではなく、

「私と相手の双方にとって、よりよい状態とは何だろう」

と問い直してみるとしたら、どのような答えが浮かぶでしょうか。

まず「私」から始めます。

その一歩が、自分の幸せだけでなく、周りの人の幸せにもつながっていくのかもしれません。

この記事でお伝えした考えについて

この記事でお伝えした「クライアントの幸せと同時に、相談の中に登場する相手役の幸せも目指す」という考えは、私が独自に考え出したものではありません。

私がアドラー心理学を学んだ師から教わった、大切なカウンセリングの基本姿勢です。その師は、日本にアドラー心理学を伝え、根づかせることに尽力した野田俊作先生から学びました。

さらに、その学びの源をたどっていけば、アルフレッド・アドラーが築いた個人心理学へとつながっています。

私は、受け継がれてきたアドラー心理学の理論と思想を大切にしながら、自分自身の実践を通して理解したことを、私なりの言葉でお伝えしています。

一人で考えても答えが見つからないときは

相手も自分も大切にできる道を探したいと思っても、一人で考えていると、同じところを行き来してしまうことがあります。

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相手を一方的に悪者にしたり、無理に考え方を変えたりする場ではありません。まずは今感じていることを、そのままお話しください。

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